公開: 2023年6月5日
更新: 2023年10月9日
最近の英米の研究者による研究によれば、歴史的に見ると、殺人による死者の数は、時代とともに減少していることが示されています。その殺人による死者数の減少に寄与している要因として注目されているものに、人々の「文字の読み書き」能力があるそうです。特に、グーテンベルグが印刷機を発明してから、殺人で死ぬ人々の数は、世界の多くの地域で、著しく減少したとの報告があります。これは、書物を読んだり、新聞を読んだりすることで、人々の知的な水準が上がったからではないかと解釈されているようです。
この殺人によって死んだ人の数の統計については、歴史学者の間では、その正確さについての議論で、様々な意見が発表されているようです。特にヨーロッパ社会における中世以前の死者数については、正確な記録が残されていないことから、歴史的な傾向について、疑問を表明している歴史学者は少なくないようです。ハーバード大学のピンカー教授は、残されている様々な記録をまとめて、各時代の殺人による死者数を推定し、大まかな傾向として、現代社会に近づくほど、死者数が少なくなる傾向があることを発見しました。
多くの研究者は、第2次世界大戦後に設立された国際連合によって出された「基本的人権の宣言」が、今では、殺人の被害者の著しい減少に影響したと考えているようです。その基本的人権で、人間の平等が謳われ、その原則に基づく行動が意識されるようになったことが、人々が怒りの感情をもった時でも、殺人を思いとどまらせる効果があるのではないかと、考えられています。これは、宗教で、殺人を禁じていることと、似ています。人権宣言は、それを人間の普遍的な倫理観として宣言したものにほかなりません。
米国の研究では、殺人犯の脳波を調べ、殺人犯の脳では、前頭葉の活動が停滞していることが指摘されています。さらに、人間の前頭葉の活性化は、人々の識字率と関係していることも指摘されています。つまり、印刷機の発明で、文明社会では人々の識字率が向上し、人々の知識の量が増大したため、倫理観が高まり、その結果、人間社会全体で、殺人が減少したのだと説明されています。ただし、殺人が減少したのは、同一民族の人々の間だけのことで、異民族の人々との間では、殺人が減少したわけではありませんでした。17世紀の奴隷貿易や、20世紀の第2次世界大戦(特に、ホロコーストなど)では、大量殺人が起きました。
スティーブン・ピンカー, 「データで見ると、世界は良くなっているのか、悪くなっているのか?」, TED日本語(2018)
データで見ると、世界は良くなっているのか、悪くなっているのか?